しぐのるです。
AT&TのCEO、ランドール・スティーブンソン氏が6月に辞任し、後任をメディア部門のトップ、ジョン・スタンキー氏に委譲するというニュースが出ました。
昨年の3月に経営陣の報酬が上昇したという紹介記事を書きましたが、その時に紹介されていた二人なので、この二人のバトンタッチは元から既定路線だったんでしょうね。

さてこのスティーブンソン氏の功績といえば、やはりAT&Tの戦略シフトをメディアに大きく転換させたことでした。ディレクTVやタイム・ワーナーの買収を通じてです。
ですが、最も偉大な功績は、1982年に米国の独占禁止法によってバラバラにされたAT&Tを、買収を通じて必要な事業を全て結集させた事です。それもバラバラにされた子会社から、元の親会社のAT&Tを買収する下剋上の形で。
通信業の統合に成功した氏は、さらにメディアの買収を開始、ディレクTV、タイム・ワーナーを買収して通信事業とメディア事業の融合を図ります。
しかし、その道はまたもやアメリカの独占禁止法によって阻まれかけますが、
今度はその独占禁止法の訴訟に劇的な勝利を納めます。
一度は負けてしまった独占禁止法に、さらに巨大な企業として返り咲き、
最後には勝利を納める。最高にカッコいい展開ですね。
そして、タイム・ワーナーの買収で可能になった「通信事業者がメディアのサブスクリプション事業を行う」という鉄板の事業がスタートする。
まさにその時に「自分の仕事は終わった」と言わんばかりにCEOを辞任するってのがまたカッコいいです。
大変お疲れ様でした。
で、この先のAT&Tはどうなるのか?
この流れは毎回ですが、AT&Tのこの先は「成長あるのみ」です。
本当にそうかって?
たしかに、通信事業者ではベライゾンやスプリントを吸収合併したTモバイルと三つ巴の戦いが始まっており、メディア部門ではネットフリックスやディズニー、アップル等、サブスクリプション事業でバチバチにやりあう未来が決定しております。
しかし、そこに商機があるわけです。相乗効果ですね。
まず通信事業で一番避けたいものは「客の解約」です。
通信事業はサブスクリプションモデルですので、収益が無くなってしまう「解約」を避けなければなりません。
この解約率の低下につながるのが、メディア部門のサブスクリプション事業「HBO MAX」なわけです。AT&Tの契約があればHBO MAXを割安で使えるとなれば、解約しようとする人が減るのは道理です。
下の去年のバロンズの紹介記事でも紹介しましたが、AT&Tの解約率が0.1%減るだけで、AT&Tの収益は1.5%も増加するそうです。威力絶大ですね。
(今現在もその値が正しいかは不明ですが)

このスキームは、自前でメディア部門を持たないベライゾンやTモバイルは他のメディア企業と共同でやるしかなく、それをやるには必ずコストが発生します。
AT&Tは自社内でそのスキームが出来るわけで、他の通信事業者よりも優位に立てるわけです。
そして、このスキームはそのままメディア部門にも有利に働きます。
例えば、AT&Tの契約者がHBO MAXで映画を観る際、通信量を割り引いたり、通信速度を優先的に上昇させるサービスを行う事が出来ます。
HBOのコンテンツはゲームオブスローンズを始めとした全世界で爆発的なヒットとなった作品が多数ありますし、今後も魅力的なコンテンツを生み出し続けるでしょう。
そのコンテンツを優先的に、いい環境で視聴できるサービスに優位性があるわけですね。
そして、最近のコロナショックで影が薄いですが5Gの時代到来です。
VRや自動運転、最新テクノロジーのほとんどは「無線通信」とセットになってはじめて意味があるテクノロジーばかりです。
VRで提供されるコンテンツ、ゲームだけじゃないですよね。
私は2月の上旬に大阪のUSJで進撃の巨人VRライドであの世界を体験することが出来てとても楽しかったです。
5G通信とメディアの力を一緒に持っているということは、そういったVRビジネスにいち早くたどり着ける可能性があります。
自動運転中で暇になったドライバーは映画を観る選択肢があるわけです。
そのすべてに上で書いた「優位性」を持ってアクセスできるAT&Tは、
今やただのディフェンシブな高配当株ではなく、爆発的な成長が出来る可能性も孕んでいるわけですね。
ただそれも、コロナショックが落ち着いてからの話になってしまっちゃって
AT&Tの株価も低迷中です。
しかし、そこは元からの高配当性があります。
その原資は…何やらそれ用の借り入れまでしちゃってますが、今のところ安泰です。
コロナショックが落ち着いて、同社株が飛躍的に上昇した時、
今回の記事を「それみたことか!」と自慢げに紹介できる事を期待します。
ひゃなばい